現金・預貯金の評価

相続税の申告を行うにあたって、現金預金は評価額(金額)が分かりやすいので相続財産の中でも容易な財産のように思われていますが、実は最も注意が必要な財産なのです。

今回は現金・預貯金について、申告上の注意点と実際よくあるミスを確認しましょう。

 

・なぜ現金・預貯金の評価に注意が必要なのか

 

下記のグラフは国税庁が公表している調査時の財産別の非違件数です。

 

国税庁HP「調査事績に係る財産別非違件数(平成29事務年度)」

 

圧倒的に「現金・預貯金」が非違事例が多いことが分かります。

最近の相続調査時には、被相続人と相続人の預金口座の履歴を税務署権限で金融機関に事前に問い合わせてきていることも多いです。

 

なぜ現金・預貯金の非違事例が多いのかの理由の一つの理由としては「現金・預貯金はごまかしようがないから」ということが挙げられます。

  

土地等の財産は評価通達というルールが細かく規定されていますが、実際には土地が百筆あったときに全く同じ土地は一つもありません。

したがって、土地の評価額(時価)がいくらか争う際には、税務署も相当の準備が必要になります。(土地の事例については、また後日更新します)

 

・現金・預貯金の申告時の注意点

 

 

①相続開始時の残高か。

 

税理士会主催の無料相談時に相続人の方が作成した相続税申告書を見せていただきますが、一番多いミスは相続開始時の残高を載せていないということです。

 

例えば相続開始時の残高が100万円、相続開始日後に預金口座が凍結される前に葬式費用として50万円引き出し、現在50万円の預金口座の場合は、相続税申告書には100万円記載することになります。

 

なお、葬式費用は債務・葬式費用として実際にかかった金額を控除することができます。

 

※定期預金については、相続開始時点までの既経過利息も計上するように規定されています。金額はあまり大きくないですが、税務署の立場からするとしっかり細かく申告していると好印象を与えることができるので、銀行に依頼して出してもらいましょう。

 

②相続開始直前の引き出しは手許現金として計上しているか。

 

これまた非常に多いミスです。

相続税の申告書には、相続開始時点のすべての財産を計上する必要があるため、相続開始直前に預金通帳から引き出していても、使い切っていない限りは相続財産です。

 

金融機関の方から、口座が凍結して引き出せなくなるから生前にまとまったお金を引き出すようにお話があることが多いですが、それは生活費や葬儀代のためであって相続税には全く意味がありません。

 

実際に相続開始3日前に500万円近く引き出していながら、手許現金に1円も計上していない方がいらっしゃいましたが、私が調査官であれば間違いなく指摘します。3日間で500万円を使い切った可能性は低いからです。

 

③名義預金はないか。

 

名義預金とは、名義上は他人のもの(相続人等)になっているがその実態(拠出元)は被相続人のものである預金です。

よくある例では、息子さんの名義で両親が積み立ててくれていた預金等が該当します。

 

なお、名義預金と疑わしい財産が発見された場合には実態に応じて取り扱いが違うので事実確認をしっかりする必要があります。名義預金以外の可能性は下記の通りです。

 

・過去に贈与を受けたものである場合

過去に贈与税の申告をしたのか、贈与契約書があるのか確認します。贈与の事実があったことを立証することができるかが重要です。(もらったお金だからと全く手を付けていない方も多いですが、生前の状態で疑わしい財産がある場合には、名義財産と疑われないようになるべく使うようにしてください)

 

・過去に被相続人から借りていたお金だった場合

相続税申告書には「貸付金」として財産計上します。

 

まとめ

 

現金・預貯金は申告書を提出する方のほぼ100%が持っている財産です。

したがって、税務署もかなりのノウハウを持っており、きっちりと調査してきます。

当事務所では預金の分析表を作成して大きな動きは可能な限り、相続人に確認を取らせていただいております。

 

申告する際には注意しましょう。